私はこの作品で初めて彼の作品を耳にしましたが、東京のレーベルSpekkなどから何作か発表したこともあるようです。
今 回12Kからの処女作、ということですが、2014年にはレーベルオーナーのテイラー・デュプリーや、ステファン・マシュー、iLLuHaなどの12K アーティスト達と共演した経験もあるようで、徐々にこのレーベルから作品をリリースする準備をしていたであろうことが伺えます。
一聴してみて気が付くと思いますが、本作はいたってメロウな質感のアンビエント作品に仕上がっています。
キラキラと輝くような金属音や、ゆったりとした音響、フィールドレコーディング素材などが繊細に重ねられ、とても牧歌的な心地よさを感じさせてくれる、まさしく「12K的」な作品と言えるでしょう。
本 作にてデュランはシンセサイザーやピアノなどの鍵盤楽器のほか、ギリシャ発祥の撥弦楽器ライアーやオルゴール(ミュージック・ボックス)、様々なオブジェ クトを用いています。(ライヤーも黒鉛筆で演奏したようです。'hammered with a black pencil)
多少の電子楽器は含みつつも、多くはアコースティックな楽器であったり、木やテープ、グラスにナイフといった、言ってしまえば「オーガニック」なものが用いられています。
また、この手の音楽においては、そういった録音に使われる素材ももちろんですが、ポストプロダクションで使われる機材もまた同様に重要です。
彼はその部分について、今作ではアナログエフェクターを用いて行い、ラップトップは一切使用していません。
今回用いられたのはオールドファッションなロック・ミュージックや、ジャマイカンダブなどで使用された名機Roland Space Echo RE-201やエレハモ社製のルーパーEhx 2880などです。
さらに、そこに加えて使用されたのはMDやソニー製のカセットプレイヤー(TCM-200DV)です。
iLLuHaの伊達伯欣の手記によれば、彼はブランクのTDK社製カセットテープから流れる音をライヴの素材(背景)として使っているそうです。
同 手記には、彼がこの製品に対して強い愛着を感じているらしいことも記されていますが、本来であれば無音であるはずのテープから流れる、ざわざわとした揺ら ぎや暖かく仄かなノイズなどが皮膜のようにレイヤーされることで、作品全体に独特なノスタルジアを生ぜしめているように感じました。
先述 のアナログエフェクターへのこだわりもそうですが、こういった彼のフェティッシュな美意識が、実際に音となって反映されることで我々の意識をハードな現実 から隔絶する壁/膜のような役割を果たし、オーガニックな素材により録音された音や話し声が織りなすドリーミーな世界に我々を没入させてくれるのかもしれ ません。
個人的には、この壁/膜のようなノイズが、マーカス・フィッシャーが2010年に同じく12Kより発表した"Monocoastal"と共通した空気/サウダーヂ感を彼の作品にもたらしているように思います。
12Kファンや、"Monocoastal"が好きな方には大推薦盤です。
2016年の12Kも期待大ですね!
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Thank you very much Eternal Music for this nice review! F.